ショーモン城
パスカル・コンヴェール
"Bibliothèque cristallisée" と "Ceux de 14"
published at 16/12/2020
Bibliothèque cristallisée
パスカル・コンヴェールが創り出す神秘的であると同時に奥深い作品の中心には、スピリチュアリティ、記憶、そして感覚があります。彼の作品は、主に軌跡と忘却の拒否に焦点を当てています。そこでは、物体であろうとも命あるものと同様に失われてしまった全てのものに対する特別な絆を築き上げているのです。彼は、オブジェの上に溶けたガラスを注ぐことで、本の素材または彫刻の木をガラスによって少しずつ侵食していく、結晶化と呼ばれる手法をよく用いています。それは全質変化であり、文章の魂を繋ぎとめる特別な錬金術であるかのようです。
「失われた本の結晶化」の本質は、本とその内容を溶けたガラスで破壊することで、ガラスを少しずつ本と取り換えていく事にあります。その結果、命のないオブジェ、ガラス化された記憶を持つ結晶化された作品が生まれるのです。彫刻の中心には、元の本の焼け焦げた残骸が残されています。
軌跡、痕跡はパスカル・コンヴェールの作品に遍在するテーマであり、戦争、破壊、抵抗のテーマとリンクしています。「彼はしばしば制作の際、ロウまたは金属、ガラスなどの素材を使用した侵食と複製の手法を用いることで、歴史が残した痕跡を明らかにします。彼はガラス職人の手を借りて素材となる本を破壊すると同時に、性質を変化させることにより、これらの本の複製を作り出しました。ガラスが冷えた後は、その素材の中に本来の姿と火による破壊の痕跡を留めながらも永遠に変化することのない、それぞれの本のガラス製レプリカが残されるのです。これらの断片は、全体主義の権力によって燃やされた数え切れないほど多くの図書館を思い出させます。」
パスカル・コンヴェールは、1957年の火災により破壊されたブロイ・デュ・シャトー(Broglie du Château)の図書館に、燃えた書物の代わりとして、火によって結晶化した本を展示する予定です。の
CEUX DE 14
パスカル・コンヴェールは、その他にもヴェルダンの戦場から持ち運んだ切り株を墨汁でコーティングした作品、およびガラス化した作品を展示します。重なり合う記憶で満たされた、これらの衝撃的な作品は、見る人の精神に強い痕跡を残します。
「いまだに根を張り続け、すでに枝を伸ばしているように、切り株とは深さを持つオブジェであると同時に、成長するオブジェでもあります。それは、その塊の中に全てのエネルギーを集めると同時に、幹から分かれる枝、触手のように広がる小枝、ウニのような鋭いトゲにそのエネルギーを発散させていきます。ダイナミックに乱れる枝によって活動する命であるという印象と同時に、すでに無機的で化石化した側面によって時間が止まった命を思わせます。そのグラフィック的な構造によって、切り株は彫り込まれた、装飾的で過度に精密で貴重なオブジェとなっていますが、その粗野で乾燥し、ひび割れた姿によって、単純に大洪水後に残された何かの大きな残骸であると考えることもできます。切り株とは、破壊後の残留物のような偶発的な物体であるのと同じくらい、成長する生命体として必要なものです。それが成長する土壌の中では一貫性を持つのと同じように、それが置かれた地面の上で不安定で不条理なものなのです。切り株には、、そこを基盤とする樹木のあらゆる誕生と成長が凝縮されているため、有機的な時間の塊であるともいえるでしょう。しかしまた、それは樹木が常にうまく成長していくための場所を確保する、空間的な網、彫刻の土台、グラフィックシステムでもあるのです。」ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(Georges Didi-Huberman)、 『La demeure, la souche, apparentements de l’artiste』(家、切り株、アーティストのアパート)、1999年。
プロフィール
パスカル・コンヴェール
フランス
パスカル・コンヴェールは芸術家の息子として、1957年にモン・ド・マルサンで生まれました。彼は造形作家であると同時に、作家、映画監督でもあり、自身の取り組みを建築や子供時代、歴史、身体、時間の痕跡を研究する学問であると位置づけています。彼は、時間の経過や光、根強く残る過去の名残りなどを呼び起こす、ガラスやロウなどの素材を使用しています。1987年、ボルドーに住んでいた時、彼はアパートの部屋の木板をガラス板で覆い、『Appartement de l’artiste(芸術家のアパート)』シリーズの制作を開始しました。1989年から1990年まで、彼はローマのヴィラ・メディシスに滞在します。1992年、ボルドーのCAPCで初となる大規模な個展が開催されます。1997年、彼は哲学者で美術史研究家のジョルジュ・ディディ=ユベルマンに招かれ、ポンピドゥー・センターの 『L’Empreinte(痕跡)』 展に、ジュゼッペ・ペノーネ、マン・レイ、アラン・フライシャーらと共に参加しました。ジョルジュ・ディディ=ユベルマンは、パスカル・コンヴェールに関する数々の書籍をミニュイ社から出版し、数多くの展覧会に彼を参加させました。 2002年、パスカル・コンヴェールは 『Monument à la mémoire des résistants et otages fusillés au Mont Valérien entre 1941 et 1944(1941年から1944年の間にモン・ヴァレリアンで銃殺されたレジスタンス運動家と人質を追悼する記念碑)』 (シュレンヌのフランスの戦いの記念碑)を完成させました。 これは、ロベール・バダンテールの提案による、国防省からの依頼でした。受刑者が処刑場に連れて行かれる前に閉じ込められていた礼拝堂の正面に、パスカル・コンヴェールは、死者の名が刻まれた2.70 x 2.18mのブロンズ製の鐘を建立しています。この作品の続きとして、2003年にドキュメンタリー映画 『Mont Valérien, aux noms des fusillés(モン・ヴェリアン、銃殺された人々の名に)』 を制作しています。
2007年、ルクセンブルグのMudam(ミューダム)で開催された『Lamento(ラメント)』 展では、ジョルジュ・メリヨンの写真を基にした『La Pietà du Kosovo(コソボのピエタ)』 (1999年-2000年)、オシン・ザウラールの写真を基にした 『La Madone de Bentalha(ベンタラの聖母)』 (2001年-2002年)、タラル・アブー・ラフメッドのビデオのスクリーンキャプチャを基にした 『La Mort de Mohamed Al Dura(モハメド・アル・デュラの死)』 (2002年-2003年)など、有名な報道写真に着想を得たのロウ製の彫刻群を発表しています。 これらの彫刻は、国連、モントリオール、スイス、イタリアなどで、幅広く展示されています。同年、彼は1944年にモン・ヴァレリアンで銃殺されたパリの共産主義レジスタンスの指導者、ジョセフ・エプスタインの伝記を出版しました。
2008年、彼はサン・ジダス・デ・ボワ修道院付属教会(ロワール・アトランティック)のステンドグラス作品群を完成させました。その後、2009年にグラン・パレ(パリ)で開催された」『la Force de l’Art (芸術の力)』展で、壮大なクリスタル彫刻『Le Temps scellé : Joseph Epstein et son fils(封印された時間:ジョセフ・エプスタインとその息子)』を出展しました。続いて彼は、ドキュメンタリー映画 『Joseph Epstein : bon pour la légende(ジョセフ・エプスタイン:伝説にふさわしい)』を再び制作します。 彼は、4年間かけて執筆した新作の伝記『Raymond Aubrac : résister, reconstruire, transmettre(レイモン・オーブラック:抵抗し、再建し、伝える)』 (Seuil社、2011年)を出版。さらに、この人物に関する2作のドキュメンタリー映画を制作しています。 その2年後には、自伝的小説 『La Constellation du Lion(獅子座)』 (Grasset社)を出版。 2004年、韓国で開催された武山ビエンナーレと、イタリアのトレント・ロヴェレート近現代美術館で開催されたグループ展 『The war which is coming is not the first one:1914-2014』 に出展。
2016年、彼はジュ・ド・ポーム国立美術館で開催された学際的な『Soulèvements(蜂起)』展に出展。この年、特筆すべき出来事と言えば、在アフガニスタンフランス大使館から、タリバンによるバーミヤン大仏破壊15周年式典に招待されたことでしょう。パスカル・コンヴェールは、紛争地帯での考古学を専門とするICONEM社と提携して、あるミッションを設定しました。ドローンを使用してバーミヤンの崖全体をスキャンするこで、世界中の科学コミュニティがこの画像に自由にアクセスできるようにしたのです。彼は高解像度カメラを使用して、およそ1600年前に巨大な彫像が彫られた場所の「写真による痕跡の資料」を制作したのです。
2019年、ギャラリー・エリック・デュポンにて、個展『Trois arbres(3本の木)』を開催。アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所火葬場の白樺の木肌、広島の被爆した1本の桜の木、アルメニアの「ハチュカル(石の十字架)」の石の生命樹を使用した作品で、パスカル・コンヴェールは家族的、文化的、歴史的な考古学を通じて、人類の近年の歴史の中で破壊から生き延びたものたちを想像しようと試みています。
パスカル・コンヴェール(Pascal Convert)は、2021年のナポレオン没後200年にあたり、『Memento Marengo』を制作しました。古代ギリシャの歴史家ヘロドトスは、騎士が馬とともに埋葬されていたことに言及していますが、アジアの一部の地域では、同様の慣習が20世紀まで続いており、死者のお供をするように馬が上に吊り下げられている騎士の墓が見られました。パスカル・コンヴェールの作品は、古代の儀式を現代風にアレンジしたもので、ナポレオンの愛馬マレンゴの骸骨(オリジナルの骸骨を写真測量で撮影したものに基づく)をアンヴァリッドのドームの下に吊るし、現代的な「メメント・モリ」を演出しています。
昨年は、Voyage à Nantes(ナントへの旅)からの招待を受け、当地方の名家の墓が並ぶミゼリコルド墓地に恒久設置される作品『Miroirs des temps(時間の鏡)』を制作しました。当墓地で最も古く、植物が特に生い茂ったあたりのあちこちに置かれているのは、ガラス工芸師オリヴィエ・ジュトー(Olivier Juteau)と共同で制作したガラス製の浅浮き彫り作品です。亡霊として現れたかのような動物たちの物言わぬ深いまなざしが、墓地を訪れる人々の視線と出会います。